2024.08.03──缶の底

 粒入りブドウジュースは市販の缶ジュースとしては旨い飲み物だが、ジュースを飲み干した際、缶の底に粒が残ってしまうのが難点だ。

 今日も粒とジュースを上手く混ぜながら慎重に飲んでいたのだが、結局一粒だけが余ってしまった。舌を伸ばしても届かず、缶をひっくり返して底を叩いても粒は落ちてこない。

 仕方なく、私は台所から長い菜箸を持ってきて、それを缶の飲み口に突っ込んで粒を取り出すことにした。

 だが奇妙なことに、箸をどんどん挿入していっても、一向に底に触れない。ついには、缶よりも長いはずの菜箸がすっぽりと缶の中に収まってしまった。

 これはおかしい。私は缶の飲み口を覗いてみたが、真っ暗で何も見えない。照明を点けた部屋の中にも関わらずだ。次にスマホのカメラを飲み口に当てて、フラッシュを焚いて撮影を試みた。

 だが、撮られた画像に映っていたものも、真っ暗で何も見えない空間ばかりであった。信じ難いことだが、私はある仮説を立てた。この缶ジュースの中身は、どこか見知らぬ広い空間に通じてしまったのだ。

 こうなるとブドウの粒を諦めることはもちろんだとして、この缶そのものの処理も困難となる。中身に広大な空間を宿した缶を、果たして潰してしまってもよいのか? 結局、その缶を空いている戸棚に安置するしか方法が浮かばなかった。

 その後、缶は煙草の灰皿として使ったり、分別に困るゴミを捨てるのに重宝している。

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