2024.08.02──叔父さんの砂嵐

 古いテレビは電波状態が悪かったりすると画面一杯に灰色のノイズ……いわゆる「砂嵐」が発生するのだが、僕の叔父さんの家にあるテレビはちょっと違った。

 まずは普通のテレビのようにザーッザーッと砂嵐が起きるのだが、段々とその音が弱まっていく。画面一杯に広がる灰色のノイズが一粒づつ動きだし、画面に花やら、魚やらの図面を描き出すのだ。叔父さんはこれを「砂絵」と呼んでいた。

 そのテレビの画面に、砂嵐以外の映像が映っている姿を、僕は見たことがない。しかし叔父さんはそのテレビをとても大事にしていて、テレビの方も叔父さんのことを気に入っているのか、叔父さんが手を振ったりすると、画面の砂嵐はとても精密で、綺麗な砂絵を作り出すのだ。僕やお母さんが何かをしても、決してテレビは反応を見せない。これは叔父さんだけが使える魔法なのだ。

 そんな叔父さんが、つい先日亡くなった。

 叔父さんは何十年も部屋に引き籠って生活をしていて、亡くなったのも部屋の中でだった。

 叔父さんは倒れる寸前まで、ずっとその砂嵐しか流さないテレビを見ていたそうだ。

 そして叔父さんが居なくなってから、その古いテレビの電源は点かなくなり、あの砂嵐による美しい砂絵は二度と見れなくなった。

 叔父さんと人生のほとんどを一緒に過ごしたそのテレビは、叔父さんの骨壺と共にお墓に納められた。

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