Aug.
2024.08.01──無縞の虎を追え
雨上がりの町に無縞の虎が逃げ出した。被害が出る前にこれを捕らえるべく、縞書師の真島宍は町へと駆け出した。
無縞の虎は縞模様に飢えている。身体に縞が描かれていないと具合が悪いのだ。無縞の虎は縞を求めて町中の至るところに出没する。工場を取り囲む鉄柵、車が行き交う道路の横断歩道、子供達が遊ぶ公園のジャングルジム、縞模様があるところなら、どこにでも。
無縞の虎の飢えを満たしてやるのが、縞書師の仕事だ。真島は商売道具の大筆を高々と掲げながら、往来を俊敏に動き回る。刀を抜いた武士さながらの姿だ。目を縦横無尽に動かし、無縞の虎の行方を追う。
真島の大きな目がギョロリと、ある一点を捉えた。それは高いビルの、柵で囲まれた屋上。一人の女性が怯えた顔つきで柵にもたれ掛かっているではないか。その視線の先には、無縞の虎。
ビルの階段やエレベーターを使っていると間に合わない。真島はその場で大きく跳躍し、ビルの壁に貼り付いた。そしてまたその場で壁を蹴り、さらに大きく跳躍。真島は五度の跳躍によって屋上に辿り着いた。
無縞の虎は、今にも女性に襲いかかろうとしている。正確には女性の後ろの柵になのだが、どちらにせよ同じことだ。真島は跳躍した勢いそのまま、無縞の虎に飛び掛かった。
無縞の虎が真島の姿に気付くと同時に、真島は大筆を一閃。瞬く間に虎の身体に、美しい縞模様が描かれた。
縞を得た虎はどこか満足そうな顔つきで、屋上からビルの階段の方へとノソノソ歩いて行った。腰が抜けてしまった女性を真島は立ち上がらせて、後から駆けつけてきた人達に女性と彼女の靴を預けた。
雲の切れ間から差した陽光が、雨に濡れた屋上の柵を照らす。虎も見惚れるその美しい縞模様を見て、真島は微笑んだ。
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