2024.07.31──雨宿り

 突然の夕立(近頃じゃゲリラ豪雨なんていう風情の無い呼ばれ方をしてる)に打たれ、傘を持っていなかった俺は全身びしょ濡れになりながらも屋根のある場所を必死に探した。

 ふと、人が住まなくなって随分と時が経っているであろう、古い木造の家を見つけた。窓ガラスは割れるか外れるかしていて、壁や柱も経年劣化により黒ずんで、あと僅かの命といった風情を醸し出している。普段なら近付きもしない建物だが、今は事情が違う。

 俺は玄関の扉を開け(鍵は開いていた)中に無事侵入した。バラバラバラという雨音を聴きながら服に染み込んだ水を絞っていると、無性に家の中の光景が気になってきた。

 人の居ない廃墟だ。ボロボロの状態になっていることは予想出来たが、それにしても物が多い。家具の類いは勿論のこと、古い家電に書籍の山、子供の玩具などもそこかしこに散らばっている。

 持ち主が居なくなったのなら、その私財は家族が引き取るか業者が処分するかすると思うのだが、まるで住んでいる人間だけが消えたように、使われなくなった物だけが残っている。

 ここの住人は不慮のこと(事故や事件)で突然居なくなったか、それとも廃墟のようでまだ誰かが暮らしているのだろうか? 考えていると、俺は段々気分が悪くなってきた。あまり長居はせず、すぐにおいとまを頂戴したかった。

 そんな俺の願いが天に届いたのか、夕立は急速に勢いを落とし、雨はピタリと止んだ。雲の切れ間から光が見える。俺はホッとして、一歩を踏み出した。

 その時だった。

【おいみんな、雨止んだみたいだぞ】

【よぅし、帰んべ】

 そんな声が部屋のどこかから聴こえたと思えば、急に部屋中の物が大波のように動きだし、瞬く間に玄関の扉から外へと飛び出して行った。

 一切の物が無くなってガランとした廃墟の中で一人、俺は呆然と佇んでいた。

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