2024.07.30──薬飴屋は気さく

 夏祭りの季節にやってくる薬飴屋は気さくだ。

 万病に効くと言われる薬飴を子供でも買える値段で販売し、一人ひとりの客に笑顔で対応。商売中は諸国を歩いて見聞きした話を身振り手振りを交えて聴かせ、夏祭りを盛り上げる。

 串に通され、発泡スチロールの台に何本も刺された薬飴は、色取り取りで多種多様。その一本一本が違う効能を持つとされる。富む者も病める者も一人が買える飴は一本限り。それでも飴は夏祭りの途中ですぐに完売となる。

 飴をすべて捌いた薬飴屋は、大きな旅行鞄から大きな楽器を取り出し、祭り囃子に乗せて聴いたことのないメロディーを奏で出す。毎年、毎年、違う音楽を演奏する薬飴屋の周りを、多くの見物客がぐるりと囲う。

 夏祭りが終わると、薬飴屋は楽器を仕舞い、店を片付け、また諸国を巡る旅に出てしまう。次に彼に会えるのはまた一年後。それまでに人々は、彼から買った一本の薬飴を大切に舐めて、一年の健康を祈るのだ。

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