2024.07.24──世界の果てに残るもの
両親が他界し、兄弟もなく天涯孤独の身となった奥貝奈琴は、勤めていた会社を辞め、住居も売り払い、誰にも関与されない一人だけの旅を始めた。
家財道具や私物のほとんどは売却して旅の資金としたが、手元に残ったいくつかの大切なものはリアカーに積んで、それを引きながら道中を進んで行った。
新たな町に着く度、奈琴は持ち物の整理を行った。そして必要がないと判断したものはその町で売るか捨てるかして、どんどん荷物を減らしていった。
リアカー一杯に積んでいたものが、やがてリュック一つに収まる程度に、そのリュックも年月を重ねるに連れて、どんどんと軽くなっていった。
十年後、奈琴は何キロも続く白い砂浜の中にいた。
目の前には濃い青色をした海があり、砂浜を歩く他の人間も、海に漕ぎ出る船の姿もない。そのどこか現実離れした光景は、奈琴一人のみが独占している。
奈琴はきっとここが世界の果てなのだろうと、確信めいた気持ちになり、懐から一冊の薄い本を取り出した。
色々な作家の短い話が記された、市販もされていないチープな書籍。それが奈琴の手元に最後まで残った、唯一の家財だ。
奈琴はその本のページを一枚一枚破り取り、それを目の前の海に流していく。
一話、二話……全ての物語が海に送り出された時、白い砂浜の上から奈琴の姿も忽然と消え去った。
後に残されたのは白い砂に群青の海、そして数片に散らばる物語のみだった。
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