2024.07.19──異能検挙⑤

 鳥林の上半身と下半身はサッカーボールのようにバウンドし、赤い血でアジトの床を彩った末に動かなくなった。

 鳥林の無惨な姿を見て、黒い岩石の鬼のような異形すがたに変わった德馬は勝利の咆哮を上げる。

「銃を持っているからって油断したナァ!? そんなもん俺の異能の前では無力だわ!! ありがたい前説ごくろうさまでしたァ!!!」

 ギロッ、と德馬は視線を移す。鳥林以外の警吏達は、拳銃を構えながらジリジリと後退していく。

 公安共が押し寄せようが何も変わらない。アジトを隠してこそこそやっていたのは、面倒事を避けるためだ。自分のこの最強の異能があれば、イースト都市などすぐにでも支配下に置ける。德馬は勝利の笑みを浮かべた。

「…………いっ……たいな……少し予想外だった」

 その声は、德馬の後ろからした。

 ……後ろ? 雑魚警吏共は全員自分の前にいるはず。

 後ろにあるのは、ただの死……

「……っ!?」

 背後を確認した德馬の目に、ありえないものが映った。

「変身型の異能でここまでの怪物になるのは珍しい。今までコソコソやってくれてて逆に助かったな」

 スーツを真っ赤に濡らした鳥林が、頭を掻きながら言った。

 ……真っ二つなったはずの身体が、完全にくっついた状態で!

「バカな!? お前は死っ……!」

「実際今までは大変だったんだ」驚愕する德馬を余所に鳥林が語る。「異能対策課と言っても、課内のメンバーは普通の人ばっかだ。もう少し治安に真面目な異能者が居たっていいのにな。みんな善い人だから肩身が狭かったわけじゃあないが、どうしようもない孤独感はあった。こればかりは仕方ない……」

 六枷くんが来てくれて良かった、と鳥林が言う前に德馬が叫んだ。

「貴様も異能者か!! 細胞組織の超再生能力か!?」

「少し違うな」

 そう言って鳥林は指を鳴らした。

 途端、德馬の周りに赤い柱のようなものが何本も伸びてきた。

「これは……奴の血……!?」

 柱を形成しているのは、先程流れ出た鳥林の血液だ。床中の血が移動し、德馬の近くに集まってくる。

 德馬は気付いた。他の警吏達は自分を恐れて後退したのではなく、鳥林の「攻撃」を邪魔しないために距離を取ったのだ。

 しかし気付くのが遅すぎた。

 鳥林の血は、德馬を閉じ込める強固な檻へと変わり、德馬の身体は完全に拘束された。

「細胞操作能力──それが俺の異能だ」

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