2024.07.14──遠投屋

 大規模な太陽光フレアによる影響で、文明からあらゆる電子機器が失われた未来。

 人類は遠方の者と連絡を取り合う手段として、「遠投屋」という職業を産み出した。

 人々はしたためた手紙を丸いカプセル状の封筒に仕舞い、それを遠投屋に預ける。遠投屋は鍛え上げたその肩力をもってカプセルを投擲し、遠方の人物へとお届けするのだ。

 より遠くへ、より正確にカプセルを投げられる遠投屋が人々に尊ばれ、遠投屋もその期待に応えるべく日々の鍛練を欠かさなかった。

 だがそんなある日、一人の発明家によってカプセル専用の投擲機が開発され、人の肩よりも遠距離へかつ正確に手紙を届けることが可能となった。

 これにより多くの遠投屋は廃業に追いやられ、人々の連絡手段は投擲機が主流となり始めた。

 だが、一部の遠投屋はひっそりと仕事を続けているという噂も、投擲機時代の人々の中で広まっていた。

 公にできない機密を認めた文書を送る時に、投擲機だと足が付きやすいため遠投屋に内密で手紙を放ってもらうという。

 煙に紛れるようにカプセルを投げることから、その内彼らは煙投屋と呼ばれるようになった。

 煙投屋は公的な記録には残されていないが、人々により長い間語り継がれる伝説となった。

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