2024.07.10──先客万来

 社長たるもの重役出勤などせず、社員の誰よりも早く出社するのが私の信条だが、社内の誰よりも早くこの光景を目にした時はそれを改めたくなってしまった。

 社長室の普段は私が座っているフカフカの椅子。そこに、見たこともない丸くて巨大な生き物が腰かけているのだ。

 どこまでが頭でどこからが胴体か分からない身体から、これまた太い手足が生えていて、指と爪のようなものもあるが、爪先は丸まっていてビー玉のような光沢を放っている。

 人よりも大きな目があるが、身体の大きさとの比率でつぶらな瞳に見えなくもない。鼻や口や耳がどこにあるのか、パッと見では分からない。

 そんな怪物が私の仕事机に鎮座してるものだから、私は慌てて社員全員にメールを出し、社長室に代表の何名かを集めた。まず先に警察に掛けるべきだったかもしれないが、会社内の問題は出来るだけ独断ではなく会議をもって決定したいのだ。

 社長室で井戸端会議のように立ち続けながら全員で色々な案を出すが、これといって妙案は浮かばなかった。その感も、丸い謎の生き物は私の椅子にずっと座り続けている。目を開いているから寝ているわけでもないようだが、こちらに関心を示している様子もない。

 不気味ではあるが、これといった害意も感じなかった。結局私は社員立ちを通常業務へ戻し、私もその日は社員達と同じ部屋で仕事をすることにした。

 定時になり、社員達が帰り始めた頃にもう一度社長室を覗いてみると、扉も窓も開いた様子はなかったのに、いつの間にかあの生き物は消えていた。

 これっきりで姿を現さなくなるかと思いきや、数ヵ月後に出勤すると、また丸い巨体が私の椅子に堂々と腰掛けていた。

 その後も不定期で、私の椅子はしょっちゅう彼に独占される。その度に私は社員達と談笑しながら、仕事に励むのである。

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