2024.07.08──傷ついたクラゲの降りる町

 ボロボロに傷ついた巨大なクラゲが町の近くに降り立った時、人々はどのようにしてそのクラゲに接するべきであろうか。

 クラゲは、確かに傷ついている。人々はその傷を癒してやりたいと思うが、クラゲの傷の治し方を知らぬが故に、下手に手を出せば余計にクラゲを傷つけてしまう。

 そしてクラゲはその巨体のため、四方八方に触れれば痺れる触手を伸ばしてくる。クラゲをそのままにすれば、人々は安息に過ごすことは出来ない。だからクラゲに早く退いてもらいたいのだが、傷は深く、中々飛び立とうとはしない。

 そもそも、クラゲが傷ついたのは、町の人々のせいではない。人々の預かり知らぬどこかの海でクラゲは傷つき、ここに流れてきたのである。そしてその苦しみを痺れる触手の形で、あちこちに発散してくるのである。

 だが、誰か傷ついたクラゲを責めることが出来るだろう。

 いっそのこと、原因が自分達であったらとさえ、人々は考える。しかし、それは考えるだけ無駄な行為なのである。人々が今やるべきは、クラゲが自然に癒えてくれるのを固唾を飲んで待ち、そしてその後にクラゲがどのように動くのか、それに備えることである。

 そして出来ることならば、元の優しい、無害なクラゲに戻り、大空をゆったりと回游してくれることを、人々は切に願っているのである。

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