2024.07.05──果汁2%の脱出

 春沢舞夕が玄関の扉を開けると、そこには巨大な1個の檸檬がゴロリと転がっていた。

 高さが3mはあるだろうか。そんな驚異的な直径を持つ檸檬が玄関の前に転がっているものだから、舞夕は外に出ることができない。今日は大学の講義が無くてラッキーだったなぁと楽観的に考えてみるがそれでは目の前の問題は一向に解決しない。

 最大の問題は、舞夕が酸っぱいもの全般を一切口にできないことだ。

 玄関を塞いでいるのは食物だ。ならばこれを食べて取り除くのが道理というものだが、酸味が苦手な舞夕にとってこのサイズの檸檬など大量破壊兵器級の代物と言っていい。仮にこいつを平らげて玄関が空いたとしても、もはや舞夕は外に出られる身体ではなくなるだろう。

 如何にしてこの酸味の暴力と戦うか。舞夕は家の中に戻り、台所から砂糖、蜂蜜、チョコレートなどありったけの甘いものを持ってきた。酸味と甘味のマリアージュ作戦である。

 舞夕は檸檬に包丁を入れ、そこから切り出したものに甘味を添えて口にしていく。舞夕が満腹になる頃には檸檬の1/50程は無くなり、身体を這って進めばなんとか外に出られるくらいには事態が好転した。

 だが、まだ檸檬は49/50も残っている。いくら外に出られたからとはいえ、このまま檸檬を残し、腐らせてしまえば舞夕の『負け』である。

 出来るだけ効率的に檸檬を食していく算段を立てながら、ひとまず舞夕は大きめ冷蔵庫を買うべく家電量販店へと足を伸ばすのであった。

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