点ミニッツ

2024.07.02──カーテン平和国

　カーテンを開けてはいけない。カーテンの外には恐ろしい世界が広がっている。

　外にあるのは災害、事故、罵声に暴力、殺人事件と戦争だ。カーテンを閉めていても音は聴こえる。カーテンの中で耳を塞いでも微かに聴こえる。もっと厚いカーテンを買わなければ駄目だ。

　カーテンの中は平和そのもの。このよの理想を詰め込んだユートピア。そこには災害を起こす自然はなく、事故を起こす乗り物もなく、争いを起こす人も居ない。カーテンの中に居続ければ幸福になれる。カーテンから出なければ不幸にはならない。

　しかし毎日のように誰かがカーテンの裾に手を書ける。それをまた毎日のようにカーテンの内側から殴ったり蹴ったりして追い払う。なぜこの幸福を奪おうとするのか、なぜこの理想郷を破壊せんとするのか、ここに居さえすれば争いもなく穏やかに一生を終えられるのに、どうして放っておいてくれないのか。

　だけど理想郷の防壁は脆く崩れ落ちる。理想郷には衣住はあっても食はなく、住民は長時間の飢えには耐えられない。やがて壁は内側から壊され、住民は平穏を代償に得た必要栄養素でその身に肥やす。

　そして身が肥えれば、またカーテンに包まれて、新たな理想郷で暮らし始めるのだ。