2024.06.29──魔を退ける者㉙
一陣の風が吹き、古墳に生い茂る木々の枝葉がザワザワと音を立てた。
「初めは一本の電話からだった」
女性の声が発せられた。つい先程までそこには居なかったはずの、女性の声が。
「それは同級生の
父を喪ったばかりの私は、誰かが居なくなることに対して敏感になっていた。だから、梨本くん探しにも積極的に乗り込むことにした。
そして、梨本くんの家を調べた時、私には分かった。その家はボロボロに壊れていて、その風景には見覚えがあり、私には知識があった。
梨本くんは……ゾンビに襲われて居なくなったんだ」
「その時点で、退魔師を呼ぼうとは考えませんでしたか」
口を挟んできた
「退魔師なんかに頼ろうなんて微塵も思わなかった……それどころか、これは退魔師を見返してやるチャンスだとすら思った。あなたにはとんでもない話でしょうけど……当時の私は、そうしなければ気が狂いそうだったのよ」
「……なるほど、続きを」
「まず私は、この梨本くんの家と似たような状態の場所はないか、そこで行方不明者は出ていないかを調べた。情報は不気味なほど大量に集まった。N県内の行方不明者が多いとは聞いていたけど、そのほとんどが同じゾンビによる犠牲者だと、結論付けずにはいられなかった。
そして、犠牲者はある地点を中心に、円を書くように点在していることも分かった。そしてそのある地点は……あろうことか……自分の家の近所の古墳だった。
ゾンビ探しの旅が振り出し地点に戻った私は、古墳の周囲のどこかに奴が潜んでいると踏んで、夜通し物陰に隠れながら、ゾンビが出現するのを待ち続けていた。
そしてついにその時は来た。田んぼに挟まれた狭い道を、黒くて大きい何かがズルリズルリと進んでいくのを見た。そいつは古墳の近くまで来ると、地面に溶け込むように消えた。ついに! ゾンビの隠れ場所を見つけたんだ!
……ここまではよかった。ここまでは、ね」
風に飛ばされた落ち葉が地面を転がりながら近付いてきたのを、女性は落ち着いた所作で躱した。
「歓喜に震える私の背中を、何かが引き裂いた。その時は私が見逃したもう一体のゾンビにやられたのだと思ったけど……あれはきっと触手だったのね。
切られた背中から大量の血が流れた。だけどその時の私には、出血など些細な問題だった。
傷口から私の体内に、何か得体の知れない、おぞましい、人類は接種してはいけないものが、全身に回る感覚がした。次の瞬間には、身体中に激痛が走り、皮膚も肉も骨も張り裂け、身体の内側から何かが飛び出してきた」
そして、と女性は土屋の方へと向き直った。
「気が付いた時には、私はかつて私だった肉体を見下ろしていた……梨本くん、そっくりの姿に変貌して」
そして女性は、梨本は……
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