2024.06.23──魔を退ける者㉓

 通常なら一週間はかかる任務を二日足らずで達成し、土屋ツチヤは上官から高評価を受け、退魔師仲間から一目置かれることとなった。

 しかし、事ここに至り、土屋は当時の己の功績は覆されるべきだろうと考え始めている。

 通常ゾンビの退治に成功した後、周囲に残りのゾンビは居ないか念入りな確認を行うべきであるが、土屋はN県警の取調室から出た後、すぐに荷物をまとめて見晴ヶ丘みはるがおかより足早に退散してしまった。

 それが私情による理由でなくて、何になるのだろう。

 私情でないにしても、職務怠慢以外の何物でもない。

 その時の己の怠惰な行動が、退治したゾンビを遥かに上回る脅威を2年間も放置する結果になったのだ。

 そしてその代償に、土屋は己の最も大切な相手を、失った。

 全ては己の怠慢が招いたことであり、責任は自分にある。

 その責任を果たすべく、時は2年前から現代へと戻る。


「ぐあぁ!」

 わずかな明かりの灯る暗闇の中で梨本ナシモトが叫んだ。

 肩の部分の服が裂け、そこから血が流れだす。

「梨本さん! お下がり……」言葉の途中で己に飛んできた『攻撃』を、土屋は咄嗟にナイフで防ぐ。「くっ! 『変異型』を予測はしていましたが、ここまでの巨体とは……!」

【ふっぷっぷっふ】

 土屋達が対峙する異形のゾンビ、ミ・ナ・ライブーは、その身から生える無数の触手を唸らせながら笑った。この触手が梨本の肩を裂き、土屋の身にも襲い掛かったのだ。

【愚かなり、愚かなり矮小なる者共よ。我が暗闇のクニの中、その小さき身体で余に傷を付けられると思っているのか?】

「おい! どうすんだ!?」梨本が肩を押さえながら、よろよろと土屋の方に歩み寄った。「ここまで来たら俺も覚悟を決めた……! だが現実問題あのバケモノをどうやって倒す!? 何か方法があるのか!?」

「落ち着いてください梨本さん。当然策は……」

 ミ・ナ・ライブーが二本の触手を同時に振った。空気を裂く音と共に、それは土屋と梨本へ襲い掛かる。

「!!」

【ぬ……!】

 しかし、触手は二人の身体を貫く前に切断され、地面に重い音を立てて落下した。

 懐中電灯の光に、何かが眩く反射した。それは土屋が振るった、聖銀のナイフである。

「……策はあります。しかしまずは、こうして純粋な打ち合いを続けなくてはなりません」

 土屋がナイフをひゅんひゅんと回し、ピタリ、とミ・ナ・ライブーへと突き出した。

「隊長の言を借りるなら『子供の遊び』とのことですが……聖銀ナイフの扱いなら退魔師の中でも上位の方でしてね」

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