2024.06.21──魔を退ける者㉑

 N県警本部の取調室に土屋ツチヤは一人、鞄も持たず丸腰のまま座っていた。

 土屋の顔に動揺はなく、まるで神父のような退魔師の服装も相まって、端からは罪人に祈りを捧げるためにやって来た教誨師のようにも見える。

 正面の扉が開いた。土屋が目をやると、若い一人の警察官が入室した。

「土屋さん」

 警官は敬語で話しかけてきた。土屋は席に腰掛けたまま対応する。

「出ましたか、『結果』が」

「いえそれはまだ……ただ」警官は困っているようだ。「一人……面会を求める方が」

「……彼女ですか」

 土屋の言葉に警官は頷いた。

「……やっぱり引き取ってもらいます。我々の方で対応しますので貴方はここで」

「いや」土屋は警官を引き留めた。「会いましょう」


 取調室には二人の人間が向かい合って座っている。

「昨日は遅く、今日はことがあったため、こうしてゆっくりと話せるのは本当に久し振りですね」

 土屋は落ち着いた口調で目の前の人物に語り掛ける。先程まで居た警官は今は部屋の外だが、おそらくは壁に掛けられた大きな鏡の裏から、仲間と共にこちらの様子を伺っているのだろう。

「貴方と会ったのは1年程前。そう思うと短い付き合いのような気もしますが、その短い期間の間に貴方とは10年分ともいえる話をしました。貴方は本の話を、私は仕事の話を……」

「人の」

 ずっと言葉を発しなかった向かいの人間が、口を開いた。

「人の父親を殺しておいて────何故そんな態度でいられるの?」

 向かいの人間は、彼女は……酒井サカイは、赤く充血した目で土屋を見つめた。

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