2024.06.19──魔を退ける者⑲

 その町の見所は駅を出てすぐ正面に見える古代の円墳だが、その日真っ先に土屋ツチヤを出迎えたのは墳墓ではなく、彼の交際相手だった。

「土屋! あなたが来てくれると思ってた……!」

 短い栗色の髪に太陽の光を反射するその女性──酒井サカイは、息を切らしながら土屋に駆け寄った。2年後同じ駅に訪れる際はもっと重くなっている仕事鞄を置き、土屋は酒井と握手を交わす。

「しばらく振りでした、酒井さん。もっと違う再会理由だと良かったのですが」

「ええ……お互い積もる話もあると思うけど、さっそく家に来てちょうだい」

「そうしましょう」

 土屋は酒井と共に駅を離れ、酒井の家を目指して田んぼが広がる田舎道を歩いていく。

「一週間で三人ですか……」土屋が眉間に皺を寄せる。「食欲旺盛な奴ですね。放っておけばわずかの間に町一つ滅ぼしかねない」

「ええ、厄介な相手よ……」

 酒井が沈痛な面持ちで呟いた。ゾンビに生活を、その命を脅かされていることへの不安が、その顔にくっきりと浮かび上がっている。

 土屋もまた不安であった。正式な退魔師となって日の浅い土屋は、ゾンビとの戦闘経験はあるものの、同僚との共同任務しかこなしたことがなく、個人による仕事はこれが初であった。

 慣れない初仕事で、自分の大切な人を守らないといけないのだ。

「まず、これ以上の犠牲が増えないために罠を張ること。そしてゾンビの潜伏場所を特定すること……ここから始めましょう」

「分かった。教会の人に言われた通り、N県警には連絡を入れたから、明日には応援が来てくれるわ。今日はとりあえず、家で休んでちょうだい」

 傾きつつある日に照らされながら二人は家に辿り着き、玄関の前では酒井の母親が出迎えてくれた。

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