2024.06.16──魔を退ける者⑯
「こういうの市役所とかに許可いるんじゃないのか」
「そんな猶予はありません。事後報告です」
金網を抜けると第二の関門、分厚い石の扉が立ちはだかる。土屋は扉の表面に触れたり、コンコンと叩いて音を確認したりする。
「かなり重そうですね」
「石の扱いは任せろ」
ズ……ズズ……と地面を引き摺る音を立てながら扉は徐々に動いていき、やがてゴドッと重厚な音を立てて、古墳への入り口が完全に開かれた。
「これも事後報告だな」
土屋は肩を竦めると、鞄から今度は懐中電灯を取り出し、身を屈めながら古墳内部へと侵入していった。梨本もその後に続いた。
古墳の中は暗く、土屋の持つ懐中電灯の明かりでも最端が写らない程に長く深い道が続く。土屋は懐から、常に携えている聖銀製のナイフを取り出した。少しばかり刀身が長く、ナイフよりも短剣に近いその武器を抜き身のまま掲げ、土屋は奥へ奥へと進んでいく。
「……ずっと気になっていたんだが」梨本が言った。「教会の退魔師ってのはお前みたいにナイフだとか剣だとか槍だとかの武器で戦うと聞くが、銃みたいな飛び道具はないのか? ゾンビ相手に接近戦ってのは分が悪いだろ」
「我々は銃は使えないのです」土屋が回答する。「というのも、退魔物質はどれも例外なく、『急激な温度の上昇』に弱いという欠点があります。退魔物質は急に熱せられるとその効力を大きく損ね、ゾンビに対する殺傷力も減退します。よって、聖銀を銃弾として射出したり、薬品を爆薬によって拡散させる、といった戦法は取れません」
「ふぅん……だから時代劇よろしくチャンバラでゾンビと戦うわけなんだな」
「まあ飛び道具という意味では弓やボウガンを使用する退魔師も居ることは居ますが……シッ!」
土屋が突然押し黙った。梨本も言葉を止める。
懐中電灯の光は、通路内を舞う砂煙と枯れた雑草類の外には、何も写し出していない。しかし土屋はナイフを構え、前方を注視した。
「います」
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