2024.06.14──魔を退ける者⑭

「N県の行方不明者が増加傾向にあり、それをゾンビ事件と結びつける話は協会でもされてましたが……まさか一体の手によるものとは」

 土屋ツチヤは苦々しげに呟いた。

「……信じてくれるんだな」梨本ナシモトが土屋の手元を見ながら言う。「そんな素人の作ったペラペラのノートを」

酒井サカイさんには2年前の経験もありますから、信頼に値する内容です」

 それに酒井は、自分との会話でゾンビに対する十分な基礎知識がある、と、土屋は口には出さずに頷いた。

「ゾンビの潜伏場所の目星は付いた。正体も概ね判明している。問題は、ここから先どう動くかです」

「そうだな……とりあえず、教会から応援を呼ぶのは?」

 梨本が提案すると、土屋が懐からスマートフォンを取り出す。

「既にメールは送っております。支部からここまでは距離がありますから、仲間が駆け付けるのは早くて明日でしょう」

「そうか、じゃあ明日まで

「なので」

 土屋が言った。


「本日中に我々二人だけでこのゾンビを退治します」


「…………は?」

 梨本がポカンと口を開けた。

「お前……自分が何言ってるのか分かってるのか……? その、ノート……読んだんだろ……信じたんだろ……?」

「ええ、危険な任務になりますが」土屋は淡々と述べる。「我々が応援を待つ一日。その一日の間にも、このゾンビは住み処から密かに這い出て、また人間を襲うでしょう。我々が一日何もしなければ、最低一人が襲われる──それを分かった上で、その一人を見殺しにすることを、我々退魔師は出来ないのです」

「馬鹿言うな!!」

 梨本が叫んだ。

「お前さっき個人的感情と論理的行動は別とかぬかしただろ!? 分かってんのか!? 自分が戦おうとしてるのか!! 言ってることとやってることが矛盾して……」

「ご心配なく」

 そう言った土屋の顔を見て、梨本はピタリと硬直した。

 土屋は、梨本と出会って初めて、笑顔を見せていた。

「危険な任務とは言いましたが……無謀な戦いをするつもりはありません」

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