2024.06.13──魔を退ける者⑬

 朝の珈琲を飲み干してから程なくして、土屋ツチヤは昨日電気スタンドを並べた道を歩いていた。

 傍らには梨本ナシモトが居る。梨本は歩きながら土屋に先程の話の続きを語る。

「……一週間前になる。酒井サカイから急にこんな話を切り出された。『ゾンビを見たかもしれない』と」

 梨本の土屋に対する態度は、先程よりも真摯なものとなっていた。土屋に全面的に協力するという覚悟を決めたのだ。

「与太話とは思わなかった。あいつはそんな嘘を吐く手合いじゃないし、2年前の件も既に耳に入れていたからな……ともかく酒井はここ数日間、家の近くをゾンビが彷徨いているのを確認していて、それを一人で調査していたようだ」

「調査?」

 梨本は懐から一冊のノートを取り出し、土屋に手渡した。

 ぱら、ぱら、とページを捲るに連れて、土屋は顔を曇らせていく。

「……こんなことをたった一人で。協会にも知らせずに」

「言うな」梨本が顔をしかめる。「あいつの気持ちくらい、2年前の事を担当したお前にも分かるだろう」

「個人的感情と合理的行動は別です……ともかく、この記録を信じるとしたら」土屋はパタリとノートを閉じた。「事は一介のゾンビ事件に収まるほど、薄弱なものではなさそうですね」

「ああ……本当に」

 梨本と土屋は、前方にそびえ立つ忌まわしき小山を見つめた。

「あの古墳に潜むくそったれ野郎が……ここを拠点に他所の町の人間を何人も喰ってるなんて、誰が想像つく」

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