2024.06.09──魔を退ける者⑨
無論、そのような場所を進むのは何時でもゾンビに奇襲されるというリスクが伴う。土屋は懐に、退魔物質の一つである「聖銀」で造られたナイフを握り締めながら、慎重に歩を進める。
ガサリ。
「!」
不意に、土屋以外の何者かが動く音がした。野生動物の可能性もあるが、遠くから人間の臭いを嗅ぎ分けられる彼らが、わざわざ近付いて来るとは考えにくい。
人間の臭いを嗅いで近付くのは、それを獲物として考えている存在のみだ。
土屋は聖銀ナイフを服から出し、いつでも振ったり投擲が出来るよう構える。歩は止めず、音のした方へと一歩、一歩、また一歩と距離を縮めていく。
土屋の目が、藪の中を進む人形の黒い影を捉えた。影も土屋に気付き、こちらを向いた。土屋はナイフの柄に力を込めた。
「っ!! 待て! 止まれ! 俺だ!!」
影がそのような声を上げた。聴いたことのある声だった。土屋はナイフを持っていない手で懐中電灯を取り出し、前方を照らした。
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