2024.06.08──魔を退ける者⑧

 日が完全に落ち、辺りが暗闇に包まれると、土屋ツチヤは荷物を持って外に出た。ここからが本当の任務の始まりである。

 酒井サカイの家の周囲の田んぼは街灯が少なく、油断していると道から足を踏み外してしまいそうだ。土屋はそんな悪路に、持参した電気スタンドのようなものを均等に並べていく。視界を明かりで確保するだけではなく、この光自体がゾンビの忌避する物質を放っており、ここら一帯にゾンビを入らせない「結界」を作り出す効果もある。

 ゾンビは一般的に「生ける屍」として認知されているが、正確には「屍」ではない。太陽の下でも普通に活動が出来るし、生きていくための食糧や水は不可欠で、呼吸だってしている。太陽が弱点ではないのにその多くが夜中に活動する訳は、単純に人目に付かず動けることと、孤立した得物を狙いやすくなることからだ。

 ゾンビにとっての弱点は、「退魔物質」と呼ばれる特定の物質群が挙げられ、退魔師はこれを用いてゾンビを退ける。土屋が今並べている電気スタンドも退魔物質を用いた品だ。

 土屋が持参してきた電気スタンドを並べ終えると、夜の町中とまではいかないが、周囲は明るく視界も大いに開けた。ゾンビがこの周囲で次の犠牲者を狙うのは、かなり困難になったと言えるだろう。

 安全が確保出来れば、次はゾンビの潜伏場所の調査だ。目下怪しい所といえば……と土屋は顔を上向けた。その視線の先にあるのは、見晴ヶ丘みはるがおか古墳である。

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