2024.06.07──魔を退ける者⑦
そこは
酒井宅に上がってそこで暮らす壮年の母親と面会した
面会が終わると、母親は皆に連れられて外に出ていき、土屋一人が残された。今日からしばらく、この家がゾンビ退治のための拠点となるのだ。
持参した荷物をあらかた広げ終えると、土屋は階段を登り、2階にある酒井の部屋へと向かった。
鍵は開いていた。土屋は「失礼します」と虚空に断りを入れ、中に入る。
狭い部屋の三割を占領するベッド。もう何年も使っているであろう古い箪笥に、比較的新しい化粧台。若葉色のカーテンに、同系色の絨毯。棚や机の上に均等に置かれた女性らしい小物の数々。
そこで暮らしていた者の生活が、まだ残留思念のように漂っているように思えた。実際、昨日の朝まで彼女はこの部屋に居たのだ。部屋に残された遺品達は主人の死を知らずに、まだ帰りを待ち続けているようだ。
机の上に置かれた写真立てが土屋の目に止まる。そこに写っているのは酒井と……一人の男。
「……恋人、か」
最後に会ってから昨日までの2年間。酒井の時間はこの土地で動き続けていた。
土屋は窓に近付き、カーテンを開ける。日は間もなく沈み、古墳の影がさらに世界を暗くしようとしていた。
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