2024.06.06──魔を退ける者⑥

「……恋人?」

 その男──梨本ナシモトの放った言葉に、土屋ツチヤは固まった。その反応に梨本が怪訝そうな表情になる。

「おいなんだその反応……お前、酒井サカイのなんなんだ?」

「……私は2年前に酒井様に仕事を依頼された者、それだけです」土屋はそう言いながら襟を掴む梨本の手をどかそうとするが、すごい力でビクともしない。「しかし、彼女に交際相手が居るとは知らなかった」

「……含みのある言い方だな」梨本は手を離し、土屋を解放した。「あいつと『そういう仲』になったのは半年前だ。尤も、知り合ってからは随分立つがな……いや、お前には関係ないことだ」

 梨本は土屋に背を向け歩き出す。土屋が「どちらへ?」と尋ねると、歩みを止めずに返事をした。

「決まってる……あいつを殺したゾンビを見つけ出すんだ! そしてこの手で……!」

「失礼かもしれませんが、お仕事は何をされています?」

 土屋の発した言葉に梨本は足を止めた。振り返って「は?」と眉間に皺を寄せる。

「なんだよ急に……なんでそんなこと言わなきゃならん」

「少なくとも退魔師ではないでしょう。一般の方がゾンビに挑まれるのは余りにも危険です。そして何より……」

 土屋は落ち着いた口調ではっきりと告げた。

「余計なことをされて、私の仕事を邪魔されれば迷惑です」

「……ふん」

 梨本は鼻で笑った。

「事が起きてから遅れてやってきた人間が、随分偉そうな口を利くな。退魔師だから何だ? 一般人より教会の神父様が仇討ちをした方が、酒井は喜ぶっていうのか?」

 梨本は顔を正面に戻し、再び歩き始める。

「偉ぶるんだったら結果を見せてから言うんだな……どっちがクソッタレゾンビを見つけるか、勝負だ」

 梨本はそのまま町の奥まで歩いて行った。土屋はその背中が見えなくなるまで、黙って見つめていた。

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