2024.06.05──魔を退ける者⑤

 N県の見晴ヶ丘みはるがおかは土地面積の大半を田んぼが占めているが、近年になり海外の半導体企業の工場が建てられた影響で交通量は多く、駅前は都内並みに発展しているというなんともチクハグな町だ。

 駅を出て正面に見える小高い丘は古代の円墳で、見晴ヶ丘古墳と呼ばれている。墳墓で発掘されたものの大半は博物館に所蔵されているが、数点は駅の中や、商店街に点在する古い店のショーウィンドウに飾られたりしている。


 厄介事とは無縁な穏やかな町だが、この町のどこかに、ゾンビが潜んでいるのだ。


 土屋ツチヤはひとまず依頼者である酒井サカイの母親に会おうと、重い手提げ鞄を持ち上げ歩き出した。

「おいっ! お前!!」

 いきなり横から怒鳴り声が聴こえた。振り向いてみると、若い男が土屋を指差しながらズンズン歩いてくるではないか。

 男はついに土屋の眼前まで迫り、胸ぐらを思い切り掴んだ。

「『教会』の連中が今さら何しに来やがった!? もう手遅れだ! は殺された!!」

「落ち着いてください。話が見えませんが……」

 男は興奮した様子でがなり立てるが、土屋は冷静に、宥めるような口調で返す。

「私は依頼があってこちらに赴いた、二等退魔師の土屋です。『手遅れ』とは? 貴方は一体……」

「俺は梨本ナシモトだ!」

 男が叫んだ。

「殺された酒井の……恋人だ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る