2024.06.02──魔を退ける者②

 退魔協会は通称「教会」と呼ばれており、その建物もまるで宗教施設のような荘厳さを感じさせる外観をしているのだが、内部は町中に立つビルのオフィスと大差ない造りで、それは支部長室も同様である。

 吉田ヨシダの後に続いて部屋に入った土屋ツチヤは、正面の席に座る穏やかな雰囲気の男に頭を下げた。

「お早うございます。土屋です」

「うん。よく来てくれたね」

 正面の男はそう言って柔らかい笑みを浮かべた。彼の名は山代ヤマシロ。退魔協会東洋支部の支部長である。

 山代は土屋と他愛のない雑談を交えてから、姿勢を正して本題へと入った。その間ずっと、吉田は黙ったまま部屋の入り口付近に佇んでいる。

「土屋くん。2年前にキミが担当した、N県の以来を覚えているかい?」

「2年前のN県……」土屋は一瞬だけ黙ってから、すぐに二の句を継いだ。「ああ、酒井サカイ様の依頼ですか」

「さすがに記憶力がいいね」

 山代は笑顔のまま頷いたが、土屋はその顔にどこかぎこちない印象を覚えた。山代はそのまま続ける。

「あれは確か、キミが一人で担当した初めての任務だったね。被害状況に不可解な点が多かったにも関わらず、二次被害も出さずに良く依頼を達成して……」

「2年前のことはもういいだろおやっさん」

 ずっと黙っていた吉田が口を挟んだ。

「大事なのは、今からだろ」

 その声には威圧感と、えもいわれぬ緊張感があった。山代はしばらく黙ってから、ふぅ、と大きく息を吐いた。

「……土屋くん。キミが2年前に助けた酒井様だが……」

 山代は土屋の顔をジッと見つめた。


「つい先日、ゾンビに殺された」

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