Jun.

2024.06.01──魔を退ける者①

 世界的にゾンビが大量発生するようになって早10年。身内をゾンビによって喪った者達を中心にゾンビを退治する組織【退魔協会】が組織され、日夜そこに所属する退魔師達がゾンビとの戦いに明け暮れていた。

 その一人。退魔協会東洋支部に所属する土屋ツチヤは、いつものように支部寮の一室で目覚め、着替え等の準備を済ませてから、仕事に出掛けていく。その間、同居人の静かなイビキがずっと部屋に響いていたが、それを起こす素振りすら見せず、土屋は部屋を後にした。


 土屋は起きるのが遅い方ではないが、集会所には既に多くの同僚が集まり、朝の賑わいを見せていた。

 集会所の壁には大きなホワイトボードが設置されており、そこに何枚もの紙が磁石で貼り付けられている。紙には各地域のゾンビ被害が記されており、その紙を退魔師が一人一人持っていって、その日の任務に当たるのだ。土屋は事務担当の若い職員に朝の挨拶をすると、ホワイトボードに群がる同僚に混ざらんと足を進めた。

「おい」

 が、一歩進んだところで肩を乱暴にグイッと引っ張られた。そんなことをする人物の心当たりはあったが、土屋は振り返ってその者の顔を見た。

 髪の毛と繋がって一体化しそうなほど多くの髭を生やした、背の高い男だった。自分の上司である一等退魔師の吉田ヨシダだ。

「これは隊長。お早うございます」

「挨拶なんかいいから来い。支部長おやっさんから話がある」

 土屋の返事を聞かぬまま、吉田はづかづかと廊下を歩いていった。

 支部長からの直々の話。土屋は厄介事の臭いを嗅ぎ付けながら、大人しく吉田の後を追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る