2024.05.28──伝書ペンギン
鉛玉の埋まった右肩を押さえながら夜の町を走り抜け、ビルとビルとの狭い隙間に滑り込み一方に背を預けた。
まったくの油断だった。こんな負傷をするような仕事ではなかったはずなのに。ターゲットには逃げられ、しかもこちらの顔を覚えられて町中に追手をばら蒔かれる始末。ああ、最悪だ。
一休憩したらここを逃れる策を考えるとして、まず仲間に現状を伝えなくてはならない。アジトの位置まではさすがに把握されていないと思うが、それも時間の問題だ。
伝書用の鳩がいればよかったのだが、生憎組織で飼っているものはみんな出払っていて、今回は連れてこれなかった。
鳥が居て欲しい。野生の鳥が一羽でも。ものの三十秒あれば、野生の鳥を緊急用の伝書係として仕立て上げられる。猫や犬では中々上手く行かない。ハトでもカラスでもスズメでも、野生の鳥さえ居てくれれば、仲間に情報を伝えられるのに。
その時、街灯の薄明かりに照らされていた顔に影が掛かった。誰かが目の前に立っている。素早い動きで懐から銃を取り出してそいつに突き付ける。
そいつは、銃を見てもまったく動じなかった。いや、本当は驚いているのかもしれないが、そのリアクションを判断することは出来なかった。
目の前に立っていたのは、一羽のコウテイペンギンだった。
なぜ、ペンギンがこんなところにいるのか。こんな町中に、こんな夜更けに。そんな疑問はどうでもよかった。
何よりも重要なのは、ペンギンが鳥類であること。それだけだ。
銃を仕舞いペンギンを傍らに抱き寄せ、覚えている技術を必死にペンギンに仕込む。ペンギンは賢く、ほんの二十秒で自分の為すこと理解してくれた。
ペンギンの嘴に密書を咥えさせ、背中を叩いてアジトに向かわせる。街灯に赤々と照らされたコウテイペンギンの黒く大きな背中が、自分と仲間の命運を背負って夜の町を歩き始めた。
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