2024.05.24──機体に応えて

 このオンボロ機体に乗って色んな戦場を駆け回り10年は経ったか。

 10年間故障もなく、これといった不具合も起きずに居てくれるのは有難い限りなのだが、さすがに10年も同じ機体では、戦い方にマンネリが生じてきた。手前味噌ながら同業者の中でもそれなりに名が売れてきたこともあり、同じ機体を使い続ければ戦闘時の手の内がすべてバレるリスクも上がってくる。

 ならば新しい機体に買い換えるか、と思ってもこれが難しい。稼ぎはそこそこあるが新機体を買うとなるといくらかの借金を考えなければならない上、機体いうものは実際に現場で使ってみなければ、性能の良し悪しは分からないものだ。大枚を叩いてハズレ機体を引いてしまい、そのまま引退……といった同業者も幾度かお目にかかったことがある。

 何より、10年も一緒に戦い続けたこいつをあっさり手放すというのは、忍びないものだ。となると戦い方を工夫するしか手はないのだが、それにも限界が……む?

 コックピットの中で思案していた俺は、サイドのモニターに「拡張機能」と書かれたボタンを見付けた。いや、見付けたというよりそのボタンは随分前からチラチラと視界に入っていたのだが、今まで必要に駆られたこともなかったため、触れたことのないボタンだった。

 俺は何とはなしに、そのボタンを押してみた。

 すると、ズラリ! と10項目以上のボタンの並んだページに、モニターが移行した。各ボタンには速度拡張、出力拡張、索敵拡張など色々な表記があり……っておいおい……これ、マジか……?

 騙されたと思ってそれらのボタンを全て試したところ、いずれも違う恩恵が機体にもたらされ、それに合わせてまったく違う動作を行うことが出来た。

 俺は感動よりも、なんとも情けない気持ちになってしまった。10年も一緒だったのに、俺はこいつの機能は半分も使っていなかったとは……こいつもさぞ呆れていたことだろう。

 まあ俺と機体、いずれかにボロが出る前に気付けただけ良しとしよう。こんな適当な主人だが、この先の10年もよろしく頼むぞ、相棒。

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