2024.05.23──ネズミ工

 電子動ネズミをどれだけ多く飼っているかで生活の豊かさが計れるこのご時世において、俺は毎日1,000匹以上ものネズミ共と朝晩を共にしているが、別に俺がセレブということではない。俺はただのネズミ工場の職員であり、日給もしけたものさ。

 造幣局に勤めている奴が一番の金持ちだと考える人間は居ない。ネズミ工場に勤める連中も、他の仕事が出来なくて流れに流れてきた社会の鼻摘みもんばかりだ。なけなしの給料だって、貰ったその日に酒か薬で使い切っちまう。

 そんな面子の中でも、俺は割りと恵まれている人間ではある。家は飛行機の自動操縦技術で一財産築いた一族だし、中央の有名大学にだって通っていた。航空事故の責任を取らされて一家は離散し大学も2年で辞めちまったが。

 まあ上記の経緯もあり、俺は仕事仲間のまとめ役みたいな扱いをされていて、青臭い若い奴にもくたばりそうな爺さんにも連中なりの敬意みたいなものを向けられている。そんなの何の豊かさの証明にもなりゃしねぇけどよ。

 時折若い連中が、ネズミを丸ごと盗んで金持ちになろうなんて計画を持ち掛けてくることがある。中には上の連中を排除して工場を乗っ取るなんて物騒なことを言う奴すら居る。

 そういった連中は(社会の日向ではすっかり廃れた)鉄拳教育をもって黙らせるのだが、ほんの時々、こいつらの誘いに乗ってみようかな、なんて考えてしまうこともある。

 今日みたいに、工場に敷設された劣悪な工員寮で、ネズミ共の夜鳴きを聞きながら寝れない時間を過ごしていると、より一層その誘惑に負けてしまいそうだ。

 ああ、このネズミの声を、湿気て穴の空いたシーツにくるまりながらではなく、ふかふかの暖かいソファーに座りながら聞くことができたらなぁ、と。

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