2024.05.25──魔石夜市

 今日は年に数回催される魔石夜市の日だ。

 王立魔学校舎の内部にある広場にいくつもの出店やテントなどが張られ、この日のために世界中から多くの魔道具の商人、とりわけ魔石を扱う人々が集う。

 魔学に通う私は夜市を彷徨いながら、各々の出店の様子を観察する。魔石をケースに仕舞って綺麗に並べる店が多い中、テーブルにただバラ蒔いたように魔石を販売する店があったり、綺麗な赤と桃色をした桜炎石を肉の切れ端のような見た目にカットして、わざわざお皿に載せて販売する店があったりと、見ているだけでも大分楽しめるイベントだ。

 いつもは基本的に友人の付き合いで来ているのだが、今日は目的があってこの夜市に赴いた。目当ての石は海封岩と呼ばれる、海の力を宿している魔石だ。

 見た目もまるで陽の当たった美しい海面のような見た目をしている石で、自身の研究のためにも是非欲しい石なのだが、これがなかなか高価なもので、お眼鏡にかなうと思った石は大概が手の出ない値段ばかりだ。

 だから安価で手に入る海封岩を探しているのだが、そう都合良く簡単に魔石が手に入るものじゃない。魔道具屋も遊びで来ているわけではないのだ。

 今回は諦めて、ひとまず別途購入した古代樹の化石を手に帰ろうと思った時、ある店に置かれた魔石が目に入った。海封岩のような青色の石だったが、海のような見た目ではなく、まるで空の景色をそのまま閉じ込めたような、そんな青色をした石だった。

 店主に尋ねると、それは層空石という近年見付けられた魔石とのことで、私も初めて見る石だった。詳しい情報は魔学の図書室で調べられると思うが、ともかく私はその石に強く心を惹かれた。

 値段もギリギリ手が出る範囲のもので、私は一個だけそれを購入した。海を手にすることは叶わなかったが、空を手に入れることは出来た。それだけで、今日の魔石夜市に来た甲斐はあったものだろう。

 店を離れて空を見上げると、どうやら思ったよりもこの夜市に長居していたようだ。地平線からは太陽が頭を出そうとしていて、空も黒から紫へ、そして私の購入した石のような青色に変わろうとしていた。

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