2024.05.21──再建再検

 30年前に起きた殺人事件の真相を解明すべく、悲劇の舞台となった洋館に赴いた私立探偵の溝口だったが、洋館は廃墟どころか壁も屋根もボロボロに取り壊され、風雨で湿気った瓦礫の山と化していた。

「そりゃあ、管理する人間が居なくなって30年なんですから。こうもなりますよ」

 助手が地面から木の板の破片を拾いながら言った。溝口は瓦礫をある程度見回してから、手を口に当てうーんと唸った。

「仕方ない、再建するか」

「は!?」

 そこからの溝口の動きは早かった。地元に住む人や被害者の親戚から洋館の作りに詳しい者を集め、また当時撮られた写真を参考にしながら館の詳細な図面を引いた。図面が出来ると土木業者に連絡を入れ、作成した図面を基に洋館の再建を始めた。すべて、溝口の自腹である。

 一ヶ月後。管理する人が消え30年もの間風雨に晒され瓦礫の山と化した洋館が、なんということだろう、当時の趣を残しつつ現代の暮らしにも耐え得る新築の館へと生まれ変わったではないか。

 溝口は再建に携わった関係者の何名かを館に呼び、完成披露パーティーを開いた。赤ワインを注いだグラスを大きく掲げながら、乾杯の音頭を取った。

 アルコールで顔を赤くしながら、溝口が満足そうに言う。

「いやぁついに完成したねぇ。これで事件もほぼほぼ解決したようなものだねぇ」

「何を言ってるんですかこんなに予算を使って……!」

 助手の声を無視して、溝口は軽快な足取りで集まった皆の元へ歩いていった。

「やあやあ皆様、改めてよくお集まりいただきました。お陰さまで館も完成し、いよいよ事件の真相に迫れるといったところです」

 一同は各々がグラスを手に持ちながら、満足そうに頷いた。

「ところで」

 そう言いながら溝口が懐から一枚の紙を取り出した。それは、かなり年季の入った図面のようであった。

「これはこの洋館の『元の正確な図面』です。今回完成した館も、まあ概ね、この図面と遜色のない仕上がりになりましたが、実は一部屋だけ抜けているのですよ。一部屋だけ足りない。だけどここに居る皆様総じて、その部屋について何も言及されなかった。不思議な偶然というものはありますね。その部屋に使われていたと思われる瓦礫は再建の際に余ってしまったので、こちらで回収して科学調査をしてもらっているところです。ささ、皆様。まだ酒もあることですし、ここでその結果が届くのを待とうじゃありませんか」

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