2024.05.20──空はただ
それは運命の気まぐれか。はたまた悪意ある者による策謀なのか。その怪物はこの地上に突然姿を現した。
想像を超えたとてつもない力を持った怪物により、人類文明、歴史が歯車が刻んだ轍、透明な水に垂らされた絵の具の彩りは、瞬く間に破壊された。町は蹂躙され、町に入るための道路は断裂し、道路を走る数々の車はスクラップとなり、車に乗る人々は急速な勢いで姿を消していった。
誰も彼もが助けを求めた。神を崇める者は天に。政を信じるものは国家に。年端もいかない子供は親に。年老い枯れた親は子に。
だが怪物はそれらを容赦なく叩きのめした。まるで今まで人類が蹂躙してきた自然の代弁者のように。来るべき審判を下す陪審員のように。異端を吊し上げコミュニティから追放するマジョリティのように。
怪物の侵攻は続き、七日目には人類と人類文明の痕跡すらその大地には残されていなかった。黒煙の立ち上る大地には、その唯一の住民である、クリエイターである、加害者である怪獣一人だけが佇んでいた。
怪獣は灰色に霞んだ空を見上げた。その目に宿る感情は人類を撲滅した達成感か、孤独に耐えきれぬ悲壮か、雲の形に動物や乗り物を空想する無邪気なものか。
空はただ、何も語らず空のままであった。
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