2024.05.19──砂浜のタイヤ

 唐麦縒糸が夕刻の砂浜を何も考えずに歩いていると、砂に埋もれたゴムタイヤを見つけた。

 波に流されて何処からか漂着してきたのだろうか。大きなタイヤで、乗用車ではなくトラックに使われているもののように思える。縒糸が手で砂を掻くと、水気はあまりないようでサラサラと簡単にタイヤを掘り起こすことが出来た。

 タイヤを立ててみる。結構な重さだ。タイヤを

横向きから縦向きに変えることに成功すると、縒糸はそれを両手で押しながら、そのまま砂浜を歩き出した。砂地に大きなタイヤの轍と、点々と足跡が続いていく。

 太陽はすっかり沈みかけていて、赤く照らされた砂浜に、タイヤと縒糸の黒い影が長く深く刻まれる。

 縒糸は陽が完全に沈むまで、そのタイヤをゴロゴロと押し続けた。長いこと、本来の役目を果たせない海上での旅をしたそのタイヤを労うように。そのタイヤの存在した証を砂浜に刻むように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る