2024.05.13──籠城策

 テレビを見ていたらひどく見慣れた光景がモニターに映り始めた。あなたの町を生中継! とかいう感じの番組だ。そして映っているのは我が家のある街の光景そのものではないか。

 生中継のカメラは俺のよく知る道をなぞるように進んでいく。それはつまり、俺の家に近付いてきているということだ。これはいけない。確かこの番組は適当に訪れた町の住民宅にアポ無しで突撃するような真似をしていたはずだ。そんなことを続けていてよく番組を止められないかが不思議なところだ。いやきっと俺のような連中が観ているからだろうが。

 ともかく、このままではテレビクルーは俺の家に辿り着き、インターホンに指を掛けるかもしれない。居留守を使うのも手だが、それで何度も鳴らされると近所迷惑になる。一人暮らしの身にご近所付き合いというものは軽々に扱えない。

 上手く連中の進行路を逸らさなければならない。一計を案じた俺は、ベランダに出て外に「あるもの」を放り投げた。狙いは完璧のはず。俺は部屋に戻ってテレビを確認した。

 策は上手くいった。テレビの映像は何かから必死に逃げるようにガクンガクンと激しく揺れている。それは俺がベランダから放ったボールを追って飛び出した、向かいのマンションの飼い犬アルパロスによってもたらされたものだ。

 揺れる映像には時折大きな犬の尻尾や耳、つぶらな瞳が見切れている。その映像を見てゲラゲラ笑いながら、俺は冷蔵庫から缶ビールを取り出してカシュッと開けるのだった。

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