2024.05.11──光る蝶を捕まえろ

 光る蝶を捕まえるときは装備に気を使わなければならない。

 隙間のある網は使えない。黒く、一ミリの光も漏らさない網を振るって蝶を捕らえる。光の漏れる場所があれば、その光に乗って蝶は逃げてしまうのだ。

 もちろんこの蝶を入れるケースも特注品を使う。透明で、蓋が隙間のある籠になっていると蝶はたちまち逃亡する。中の光を少しも漏らさない、密閉が可能な容器に蝶を入れる。

 一度この容器を閉めると、二度と開けることは出来ない。開けた途端、光の速さで蝶は元居た野山へ帰ってしまう。捕まえてしまえばそれきりだ。食事も空気も与えることなく、蝶は容器の中で一生を終える。

 このようにして蝶を捕らえた容器が、我が大学の地下実験室にズラリと並んでいる。中の様子は当然不明だが、貼られているラベルの文言によって、その種類がやっと特定できる。

 今日もこの実験室に容器を増やすため、私たちは野山に蝶を捕まえに行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る