2024.05.09──水に濡れた町
その町は水で濡れていた。
家屋も、ビルも、道も、木々も、つい先ほどまで雨に打たれていたといった風に、水が滴り落ち、表面を光が反射してツヤツヤと輝いて見える。
だが、この町が雨に打たれるわけがない。ここは、巨大な半球のドームで覆われた、非常施設用の町である。雨が降っても、雪が降っても、それらはドームに遮られ、中には一滴たりとも入り込まないはずだ。だとすれば、なぜこの町は濡れているのだろう。
どこか座れる場所をと目を凝らすも、どのベンチもびしょ濡れで難儀していると、前から年配の男性が歩いて来るのが見えた。せっかくなので彼にこの状況について尋ねてみることにしよう。
「もちろん雨じゃありませんよ旅人さん。ここには『象神様』がいるから、定期的に町がこのようになるんです」
お年寄りはそう言って、杖を付きながら来た道を戻り始めた。付いてこい、ということだろうか。
濡れたタイル張りの道に足を滑らせぬよう彼に付いていくと、かなり広い区画に出た。直径500mはある真円の平らな場所だ。
お年寄りは、持っていた杖を前方に突き出した。それを目で追うと、なるほど、私が合点がいった。
背丈が30mはありそうな、ボールのように丸い形をした象が広場の真ん中に座っていた。彼の周りには町の住民達が何十人も集まっていて、全員で協力し、巨大な桶のようなものを持っている。
桶には水が溜められていて、象は時よりそれに鼻を突っ込み、水を吸い込んだと思うと真上に吹き出して、水浴びをしている。そしてその動きによって撒き散らされた水が、町全体を潤していたのだ。
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