2024.05.08──倉庫番
「いやぁ……安ければどんな物件でもいいって言ったけどさぁ……」
有芥子弦市は購入したての倉庫の前でそのような言葉を漏らした。
その倉庫は弦市の経営する会社で使うには十分過ぎるほどの広さがあり、郊外で人の立ち入りが少なく、しかしすぐ目の前にバス停があるため交通も悪くないという、値段の割にはかなりの良物件である。
……入口の扉全体にベッタリと貼られたお札から目を逸らせば。
「不動産のおやじめ……お買い得とか抜かして厄介な物件を押し付けたな……どうすりゃいいんだよこれ」
倉庫に限らず、物件というものは入口を開けなきゃ使えない。この、どう考えてもヤバイ何かを封印してるらしき扉を、どうして開けられるだろうか。
「一回お祓いしてもらうか……? いや、プロの人が見たら『住むな使うな』って注意されそうだし……ん?」
弦市はそこで奇妙なものを見つけた。お札とお札の間に、スイッチのようなものがくっついているのだ。
「これ……もしかしてインターホン、か? 何で倉庫の扉にこんなのが……管理人の人が住んでるのか?」
弦市は数秒悩んだ末、誰かが来てくれることを期待して、そのインターホン押した。ピンポーン、という音が広い田舎の街に反響する。
【はーい誰?】
いきなり倉庫の扉の一部が開いたと思ったら、そんな言葉を吐きながら「そいつ」は現れた。弦市は硬直した。
顔付きや体格は小、中学生くらいの少年のようだが、髪は地面に付くほど長く、真っ白で、さらに額のところに二本の長い「角」のようなものが生えているのだ。
人間ではなかった。明らかに。
「な、な、な、なんだお前はぁ!?」
弦市が叫ぶと、そいつは面倒くさそうな表情をした。
【いやこっちが先に聞いたんだけど……お前誰だよ? 近所に越したヒト?】
「俺はこの倉庫を買った人間だ! お前はなんだ!? ここに封印されてたバケモ……」
【……え? 家主……?】
そいつは一瞬呆然としてから、素早い動きで倉庫の中に戻ったと思うと、再び姿を現した。
そして、弦市の前で頭を地面に打ち付けた。
【誠に失礼いたしましたぁあ~~!! まさか新たな主人が貴方様だったとは!!】
「………………はい?」
今度は弦市がポカンと口を開けた。そいつは構わず続ける。
【今急ぎ中を掃除しました故、改めて主をご案内仕りますぅ! さささお手を!】
「え!? ちょ、おい!」
そいつにいきなり手を掴まれ、引きずり込まれるような形で弦市はあれだけ入るのに渋っていた倉庫の中に突入した。
こうして弦市と奇妙な倉庫の日常が始まった。
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