2024.05.07──闇を歩く
どこまでも続く暗闇の空間を、ランタンを片手に私は歩いている。
この空間に入り込んで、既にかなりの年月が経過した。ここが洞窟だったのか、トンネルだったのか、どこかしかの地下だったのかも、今となっては思い出せない。ただ私は訳あってここに入るしかなかったことと、入口に引き返すことは叶わないことだけは常に頭の中に残り続けている。
この暗闇は何もないようで、時々ランタンの明かりに照らされた植物やら、小動物、虫などの生物を見かける。それらのものは、私が空腹でどうしようもなくなったり、または孤独感に耐え切れなくなったタイミングで、私の目の前に現れる。この暗闇が私の心を読み取っているのか、そんな風に考えたことも一度や二度ではない。
だが、私のこの世界に、そろそろ本当の暗闇が訪れようとしている。ランタンに使っている油が、もうすぐ切れるのだ。今までこの明かりだけを頼りに進んできたが、これからは、目で何かを捉えることは不可能になるのだ。
徐々に薄れていく暖色の明かりの中で、私はこの世界が完全なる闇になった後にやるべきことを考えてみる。明かりが使えなくなったら、私はどうやって食料などの物資を集めればいいだろう。飢えに倒れる前に目が暗闇に慣れるだろうか。あるいは、この暗闇がまた私の心に応え、明かりを発する何かを出現させるのだろうか。
手にしているわずかな明かりが、不意に前方の何かを照らした。それはこの場所に入り込んでから始めて目にするものだった。私は目を凝らしながら慎重に進んでいく。段々、その前方のものの輪郭がはっきりしてくる。その詳細、表情が明らかになっていく。
そして、そのもののすぐ前に立った時、私の目は大きく見開いた。
口から何十年振りかの掠れた声が漏れた。
「────母さ……」
ランタンの明かりが消えた。
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