2024.05.02──スリムマン・ファットマン
まったく油断した。昨晩の内に、我が社にスリムマンが出たらしい。
スリムマンはあらゆる物を痩せ細くする。一つの階に50部屋はあった我が社の壮観な20階立てビルは、一晩の内に、たった1部屋が20階分重なるヒョロヒョロの細長い建物に変わり果ててしまった。これでは仕事も何もあったものじゃない。
「ファットマンは来ていないのか? 目撃情報はあるか?」
私は部下にそう尋ねたが、誰もが困り顔で首を横に振り、私は大いに失望した。
スリムマンと対になる存在が、ファットマンだ。ファットマンはあらゆる物を肥え太くする。六畳一間の小さな部屋が、ファットマンの手によって一晩の内に1,000坪にもなる大豪邸に変わったという話は有名だ。
今我が社に必要なのはファットマンの存在だ。普通に施工してビルを直そうとしたら何年かかるか分かったものじゃない。私は部下を方々に派遣し、ファットマンの出没情報を探り始めた。
数時間後、部下の一人からファットマンの仕業らしきものを発見したと連絡があった。私は急ぎ現場に向かい、その眼前に広がる光景を見て、愕然とした。
そこは街路樹が連なる大通りだったが、その内の一本があまりにも太い。太すぎる。まるで樹齢何百、何千年分もある巨大な古木だ。幹の太さはビルにも劣らないし、木の頂上は高すぎて、下からは目視が出来ない程だ。
ふと、私の頭にあるアイデアが浮かんだ。私は街路樹を管理する団体の番号を調べ、交渉の手筈を整えた。
それ以降、我が社の本社社屋は、その大樹を利用したツリーハウスとなったわけである。
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