May
2024.05.01──走り回るゴミ袋
公園をゴミ袋がパタパタと走り回っていた。
市指定の青紫色のゴミ袋から、小さな肌色の足が伸びて、その足を一生懸命動かしてあちこちをグルグルと動き回っている。まるで光沢のある紫色のゴーストだ。
近所のちっちゃい子がゴミ袋を被って遊んでいるのだと思うが、こんな雨が降った後のグチャグチャの地面を、よくもまあ裸足で走り回れると感心する。今日は気温も低いので、後々風邪を引いたりしないだろうか。
その光景を見たのが朝のこと。その後私はいつものように会社に向かって仕事をし、そして夕方に帰ってきたのだが、再び公園の近くを歩いたとき目を疑った。さっきのゴミ袋ゴーストがまだパタパタと走り回っているのだ。
家に帰ったり、両親が迎えに来たりはしなかったのだろうか? さすがに妙だと思った私は、その子に近付くことにした。私の足音を聞くと、その子は足を止めて、ゴミ袋を被ったまま私の方を向いた。
「こんにちは。キミは、近くに住んでいる子かな?」
私はそう尋ねたが、その子は黙ったまま何も言わない。私は続けて質問した。
「お父さんお母さんは近くに居るのかな?」
「わかんない」
くぐもった返答があった。声の感じからして男の子らしい。私は質問を続ける。
「分からないって、どういうこと?」
「おきたらここにいたんだ」男の子がたどたどしく答える。「ここはしらないところ。おかあさんたちをよんでもこなかった」
知らない場所でどうしてゴミ袋を被って遊んでいるのかな? と私は続けて質問をしようとした。
その時、私の脳裏にあるアイデアが浮かび、開きかけていた口を反射的に手で覆った。
私は黙ったまま、男の子が被るゴミ袋に手を伸ばした。男の子はそれを咎めず、黙って私の方を向いている。
ゴミ袋を引っ張って、その中身を露にした。
男の子は裸だった。シャツも下着も着ていなかった。
剥き出しになった肌には、いくつもの青アザが付いていた。
そして首筋には、青く、黒く、手の跡のようなものがクッキリと残っていた。
後日、私は男の子の両親をテレビのニュース番組で見た。
警察の話だと男の子は保護され、現在は施設に預けられているそうだ。今後、彼がどのような人生を歩むかは分からない。
しかし、目が覚めたらゴミ袋の中に入れられていて、見知らぬ町に一人ぼっちでいるという経験が二度と起きないことだけは、切に祈らずにはいられないのだ。
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