2024.04.30──落としたパスケース
家から100m程離れたバス停まで歩いたところで、矛無祈はパスケースを途中で落としたことに気付いた。
慌てて元来た道を記憶通り辿りながら歩くと、公園の近くの道端に見慣れたピンク色のパスケースが落ちていて、祈はホッと胸を撫で下ろした。
それを拾ってさあバス停に向かうぞと振り返ったところで、祈は別のパスケースが落ちていることに気付いた。これもピンク色で、祈が持っているものと同じように見える。
祈は首を傾げた。先ほど念入りに道を調べながら歩いたはずだが、あんな所にパスケースなど落ちていただろうか? この短期間で、別の人が同じようなものを落としたのだろうか?
とにかく、今持っているものと目の前に落ちているものとを比較してみようと、祈は二つ目のパスケースを拾った。
次の瞬間、予想外のことが起きた。
パスケースを拾った途端、新たなパスケースが目の前に出現したのだ。
祈が愕然としたのも束の間、さらに二つめ、三つめと次々に新しいパスケースが出現し、それは加速度的に増え続け、やがて地面全体がピンクのパスケースで埋まり、祈の足元にまで迫ってきた。
我に返った祈はその場から逃げ出そうとしたが、増えすぎパスケースが波になって祈を襲い、祈は勢いよく流されてしまった。祈を押し流しながらさらにパスケースは増え続け、祈のことをどんどん遠くまで運んでいき……。
祈はバス停に辿り着いた。
その瞬間、祈が手に持った一つを除いて、全てのパスケースが消滅した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます