2024.04.29──穴空きハイツ

 菜売ハイツという団地にて、ここ数日連続して住民が失踪している。有増警部補は数人の部下を連れて調査に赴いた。

 消えた住民は、いずれも菜売ハイツの7号棟に住む者達とのこと。有増はこの建物を集中的に調べることにし、住民への聞き込みを始めた。

 住民は他の号棟に比べると少ないように思えた。失踪者の分が引かれているから、というだけではなく、この場所を気味悪がり、他の棟や別の土地に引っ越す家が後を絶たないのだと管理人が話した。とりあえず現在残っている家のチャイムを鳴らして話を聞いたが、怪しいものは何一つ見つからなかった。

 ひとまず今日集めた情報を精査しよう、と一度建物を出た有増達だったが、部下の一人が中々戻ってこない。電話を掛けると、それはすぐに切れてしまった。

 只事ではないと思った有増は、その部下が調べていた部屋に向かった。チャイムを鳴らすも、返事はない。ドアノブに手を掛けると、鍵は掛かっていなかった。

 その部屋は、何も無かった。部下はもちろん、住民も、家具や家電、ちょっとした小物さえ、部屋には残されていなかった。

 空き部屋と間違えたのかと有増は思ったが、部屋の入り口にはちゃんと表札が付いていたし、植木鉢や自転車なども置いてあった。確かに人が住んでいる空間のはずなのに、何故人の痕跡の一切が消えている?

 有増は確信した。原因は不明だが、つい先ほど、あろうことか自分達調査員が建物を調べている最中に、新たな失踪事件が起きてしまったのだ。部下はそれに運悪く巻き込まれたのだろうか。

 有増の胸中に激しい屈辱と後悔が沸いてきたが、今は感情に振り回されてはいけない。部屋をあらかた調べ尽くし、写真を撮ると、体勢を立て直すため有増は部屋の外に飛び出して行った。

 部屋から出る瞬間、どこからか、舌舐りのような音がしたのを、有増は聞き逃した。

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