2024.04.28──経験者

 花房香斧が500年前に作られた仏像の調査をしていた時、思いも寄らぬ発見があった。

 その仏像に使われていた木材の、その大元となる植物が、その時代ではとっくに絶滅しているはずの種と成分が完全に一致したのである。

 その植物が主に栄えていたのは6,600万年前……白亜紀、つまり恐竜が地上の支配者だった時代である。巨大隕石の衝突による地球の気象変動により、恐竜立ちに続く形でこの地球上から姿を消したというのが通説だが、香斧の発見が確かなのだとしたら、これは学説を揺るがす大事となる。

 香斧は急ぎ古生物学者など分野の違う専門家を集め、仏像のさらなる調査を進めた。そして、最終的にある一つの結論へと達した。

 件の植物だが、これは確かに、6,600万年前に繁栄の舞台から退いていた。ならばなぜ仏像からこの植物の成分が検出されたのか……それは、仏像がこの木材の化石から彫られたものだからである。

 500年前の今、その名も知らぬ仏師は何を思って石となった木から仏像を彫ったのか。産み出された仏の姿に、6,600万年前の地球の姿を見たのだろうか。

 調査完了後、仏像は元あった寺へと帰された。

 6,600万年前の生命の終わりを見届けたその仏は、現代の生命達の今後を見守り続けている。

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