2024.04.23──山の線路

 戻谷呑太は放課後に学校の裏山へ一人遊びに行った。整備がされていない荒れ山で、人が入れないように柵が立てられているのだが、小学生の呑太にはそんなもの物理的にも気持ち的にも何の障害でもない。

 深い林の中を入り口付近で拾った丁度良い棒を使って掻き分けること数十分。呑太は木が少なく、日の光が地面を広く照らす空間に出た。雑草が高く生い茂り、鮮やかな黄緑色が目に眩しい。

 そこで呑太は妙なものを発見した。雑草の絨毯の間に、錆びて茶色くなったレールが引かれているのだ。レールは途切れることなく、山の中のある方向へ真っ直ぐに伸びている。

 はて、この山はもう百年以上も人が利用していないと社会科の授業で教えられたが、一体誰が引いたのだろうと疑問に思いつつ、呑太はそのレールの上を歩いて進んでいく。レールは思いの外長く、二十分以上歩いてもまだ端に到達しなかった。

 日も暮れそうだしそろそろ帰ろうかと呑太が思った時、視界にあるものが入り込んだ。それは大きなトンネルだった。石を組んで作られた荒い造りのもので、トンネルの先は暗く何も見えない。

 線路があり、トンネルもある。大昔、ここには電車が走っていたのだろうかと呑太は想像した。日が完全に落ちてしまう前に、このトンネルの中を探検してしまおう、と呑太は足を進めようとした。

 瞬間、トンネルの奥から轟音と共に何かが飛び出してきた。呑太はその衝撃で尻餅をつき、鼻先を暴風が横切った。

 目を開くと、さっきまで目の前にあったはずのトンネルも、歩いてきたレールも、煙のように消えてしまっていた。夕日に赤く照らされた雑草だけが、風でゆらゆらと揺れていた。

 その後、呑太は家に帰ってPCを開いたり、市の図書館に行ったりしてその山のことを調べたが、電車やトロッコのようなものが走っていたという記録は、一切見つからなかった。

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