2024.04.24──墨なしチーホ
身体に刺青として刻んだ呪文を駆使して戦う者、ペインター。
ペインターの強さは、身体に描かれた刺青の規模によって決まる。より多く、より複雑な刺青を施した者ほど強く、一流のペインターは誰しも顔から爪先に至るまでの全身を、精巧な刺青で覆い尽くしている。
一般の人間はその異形な姿を恐れ、ペインターを敬遠する。またペインター同士でも、相手の刺青を見ることで己との力量差を計り、勝ち目のない戦いは避けるようにしている。
ある日のことだ。ペインターが集まり日夜その力を競い合う町、マヤウォートスクエアにて、奇妙な一戦が行われた。
その戦いに挑んだ一人は、全身が緻密かつ色鮮やかな刺青で埋め尽くされた男で、男を初めて見るペインターでも、彼がかなりの手練れであることは一目瞭然である。
問題は、その対戦相手の男だ。
刺青の量、質に差はあれど、どんなペインターでも身体の目立つところに必ず大事な呪文を刻んでいるものだ。マヤウォートスクエアにまで来て戦う者なら尚更のことである。
だか、そのチーホと名乗る男の身体には、一切の刺青が施されてなかったのだ。顔から足先まで綺麗な肌色で、一般の人間となんら変わりがない。
対戦相手の一流ペインターは、チーホの姿を見て怒り狂った。己の身を削って強さを追求するペインターの生き様を、侮辱されたと思ったのである。だから圧倒的な力量差を見せつけ、チーホの心を折ろうと、試合開始と共に一流ペインターは素早く襲い掛かった。
だが試合は、チーホの一方的な攻勢によって決着が付いてしまった。一流ペインターが地面に伏せられる傍ら、チーホは傷一つ負っていなかった。
何が起きたか分からなかった一流ペインターは、苦しげに顔を上げながら、チーホの身体を見た。傷一つない、綺麗な肌色。だが、何かがおかしい。
そこで一流ペインターは気付き、驚愕した。チーホの身体には刺青が彫られていない、のではなかった。むしろ、己の倍以上の数が彫られていた。
チーホは身体に刻まれた無数の刺青の上に、さらに肌色に着色した別の刺青を彫って、端から見ると普通の人間と変わらない、肌色の皮膚に見せ掛けていたのである。
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