2024.04.15──指導者の種
「指導者の種」を撒いてから一週間が経った。私は息子の運転するトラクターに乗って畑へと向かった。
畑の中央には一人の中年男性が立っていた。高級なスーツを身に纏い、身体はガッシリとし、威厳のある顔付きをしている。中々の仕上がりだ。
男は私達親子に気付くなり、地図とペンを要求してきた。それらの準備は既にしていたので、すぐさま男に手渡した。
地図を数分眺めると、男は自分をトラクターに乗せることを要求し、私達はそれに従った。そのまま我が家まで戻ると、男は家の電話を手に取り、色々な場所に連絡を取り始めた。一時間ほどその作業に熱中していたが、やがて男は受話器を置き、その後は家内の作った料理を食べて、風呂に入り、客間で眠った。
翌朝になると男は早起きし、私達一人ひとりと挨拶を交わしてから家を出ていった。玄関の外には、昨日男が呼び出したと思われる人々が、男のことを待っていた。
それから一週間で、家の近所に小さな街が出来た。日に日に街は大きくなっていき、一ヶ月もすると立派な都市へと成長した。町で暮らす人口も増え、技術や文化も急速に発展していった。町の中心には、必ずあの男が居た。
「この調子なら、一年もしない内に『国』になりそうだなぁ」
窓の外の都市を眺めながら息子に話しかけた。
「やっぱ土が大事なんだよ親父」息子が返した。「元々大きな歴史を持つ土地に種を埋めれば、その歴史を栄養に立派な指導者が育つんだ」
「その通りだな。しかし……その栄養にしている歴史が、どのような形で終息したか。それが懸念点だな」
私の懸念は残念なことに当たってしまった。最初は町の発展のみに精力を尽くしてきた男だったが、やがて外部の町をも取り込もうとする野心を見せ始めた。やがて町と町は衝突し、小さないざこざから大きな争い、そして戦争にまで発展してしまった。
指導者の種を植えてから三年。あれだけ立派に成長した都市は見る影もなく崩壊し、男も町の人々も悉く姿を消した。
「やはりこの土地の歴史も争いによって終息していたらしい」廃墟となった都市の土を触りながら言った。「争いもなく、かつ都市が発展した場所を見つけなくてはな」
「そんなところ本当にあるのか? 親父」
「無くても探し出すんだ。よい指導者が育つよい土と栄養を見つけること。それが我々農家の仕事なのだからな」
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