2024.04.12──氷の守人
そのアイスキューブは、人類が文明を持ち始めた頃には既に存在していたと言われている。
その白い気泡を有した透明の氷の中に、何が含まれているかは今となっても知られていない。ただ先人の書き残した記録から、けっしてこれを溶かしてはならないことだけが伝えられている。
現在このアイスキューブは某国の地下冷凍施設の最奥の部屋に保管されている。室内の気温は常にマイナス十度以下を保ち、万が一停電になっても、予備電力装置によって最低一週間は温度の上昇を避けることが可能だ。
現在このアイスキューブは私が管理を担当していて、曾祖父の代から続けて百年以上が経つ。先祖がどのような経緯でこのアイスキューブを得たのか、アイスキューブに纏わる伝承を知ったのかは定かではない。私も父も祖父も物心が付く頃には、アイスキューブを溶かしてはならないという家訓を念入りに叩き込まれた。やがて私も私の子供らにこの任を託す日が来るだろう。
冷凍庫に納められた透明のブロックを前にして、私は時々物思いに耽る。私達一族、あるいは私達から任を引き継いだ人々は、いつまでこのアイスブロックを溶かさないで居続けるのか。人類が滅ぶその日までか、あるいは世界が滅ぶその日までか。アイスキューブが溶けた時に、世界はどのように変わってしまうのか。
そのようなことを考え続けながら、父がそうしたように私はその日の床に就き、祖父がそうなったように私は棺に入るのだろう。
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