2024.04.11──透過症

 数日間他人に注目されないと徐々に身体が透けていき、やがてこの世から消滅してしまう奇病、透過症。

 世界規模のパンデミックが起き、全人類がこの病に感染すると、人々は己が注目される為のあらゆる手段を試した。絵が描ける人は名画で人目を引き、料理が上手い人は店を開いて客を呼び、演技や話術に長ける人は舞台や動画を通して己を全面的に売り出した。


 しかし、一部の人々は、まったく別の手段で注目を浴びることに成功した……犯罪行為によって。

 ルールに背く異常な行動は、正しい行動よりも人々に注目されやすい。芸に秀でてなくても罪を犯すだけ視線を集められると知った人々は、皆次々に犯罪者へと変わっていった。初めは真っ当な手段で人気を博してきた人も、やがて皆から飽きられると、犯罪で注目を浴びる手段を取らざるを得なくなった。

 地球上のほとんどの人類が犯罪者となり、やがて警察機構は崩壊した。こうなると簡単な犯罪では人々は注目しなくなり、より大きい犯罪を、より重い罪をと、段々その行為はエスカレートしていった。


 数年が経った頃、ある特異な集団が現れた。それは他者から注目される行為を、放棄した人々だ。彼らは誰とも一緒に居ることはなく、都市から離れた寂れた質素な場所で独りで暮らし始めた。

 人々は彼らを「幽霊」と呼んだ。透過症が進行して身体が透けていることと、注目されること諦めたということは死んでいるも同然ということから付けられた蔑称だ。


 自分が生き残るために犯罪を繰り広げ続ける人と、独り静かに細々と生きてやがていつかは消えていく人。

 本当に生きている人間は、果たしてどちらなのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る