2024.03.27──カタツムリの殻

 カタツムリの殻を売っている男がいた。

 殻は色とりどりに塗られていて、ビーズなどの小物によって装飾されている。

 なんでカタツムリの殻なんて売っているのかと男に尋ねると、私は空き家を売っているのだと返された。

 これは一つの生き物が一生を終えた住み処で、これを死化粧のように綺麗に整え、他の人に手渡すことが、その生き物に対する礼儀なのだと男は言う。

 礼儀と言うならば、これに値段を付けて売る行為はどうなのだと尋ねると、この活動を続けるための必要な経費であり、一個が売れれば十個もの空き家を整えることが出来ると、澄まし顔で男は答えた。

 男の口車に乗せられたわけではないが、結局カタツムリの殻を一つだけ購入した。

 家の玄関の戸棚に飾ったそれを見ていると、その殻の持ち主の記憶が見えてくる気がした。それは殻で暮らしていたカタツムリの記憶であり、殻で暮らしている男の記憶でもある。

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