2024.03.26──バウンド

 帰り道のことだ。

 その日は先方から指示書が送られてくるのがかなり遅くなった上に、納品が明日の正午までと告げられ、俺は予定にはなかった残業をする羽目になった。

 終電にはギリギリ乗り込めたが、家の最寄りまで行くバスはもう出てしまっていて、やむ無く出来るだけ近くのバス停で降車し、そこから徒歩で帰ることにした。

 ここら辺は街灯が少ないため、出来るだけ明るい道をと線路沿いを歩いていく。家まであと半分の距離まで来ただろうか。俺は前方に妙な物体を見つけた。

 一見ボールのように見えるが、所々に妙な出っぱりがあり、街灯に照らされた影と共に、ポン、ポン、ポンとテンポよくバウンドし続けている。遠くからでは暗すぎて、ハッキリとは目視出来ない。

 近所の子供の忘れていったサッカーボールだろうか? しかしなぜバウンドしているのだろう? ついさっきまで誰かが遊んでいたのか? もう日付も変わるこんな夜更けに? 様々な疑問を抱えながら、俺はそのバウンドしているものに段々と近付いていった。

 10メートルほど近くまで来ただろうか。そのボールのようなものの形がよく見えてきた。そいつは黒くて長い毛のようなもので覆われていた。猫か何かしらの動物が丸まっているような姿にも思えたが、それは違った。


 それは違ったのだ。


 黒いボールがポン、ポン、ポンとバウンドするに連れて、段々向きを変えていった。まるで、俺が近付くの見計らって、意識的に振り向いてきたようだった。

 そしてボールが180度向きを変えた時、俺はボールに


 ボールの正体は、黒い毛が無造作に伸びた、人間の生首だった。


 ポン、ポン、ポンと尚もバウンドを続けるそれは、感情があるのか無いのか分からない表情で、俺のことを見続けていた。

 その異様な光景に理解と恐怖心が追い付き、口から叫び声が出そうになった時、生首はポン、ポン、ポンとバウンドをしながら、近くの茂みに消えていった。

 後には何も残されなかった。街灯の下には血溜まりすらなかった。


 あの生首が人間の死体から飛び出したものなのか、それとも妖怪的なナニかだったのかは分からない。ただ今でも時々、子供がボールを弾ませて遊んでいるのを見ると、あの日の光景を思い出してしまうのだ。

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